読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

卵を焼くために、わたしは生きているのだ

今より先に、失望も絶望もない。

魚たちのバレンタインデー

  学校中が生臭かった。

  バレンタインデーは、つまるところこの臭いだった。

  わたしの町の話だ。

  もう二十年前にもなるのか。あの町は。

  いいか?  同じことわ言わんよ。

  国語教師は独特なイントネーションがあった。よしんばそれが正解だとしても。あるいはおたくが正しいとしても。そんな調子だ。

  秋刀魚はひっそりと、ランドセルの奥にあった。

  青い、分厚いビニール袋の中に、前夜に母にすがって何度も確認した丈夫な袋の中に。

  いいかあ?  禁止ってことわだ、見つけたら取り上げるってことだあ。

  クラスで一番可愛いその子に、いつも視線が集まった。どのタイミングで、あなたは動くのか。

  残飯を漁る、醜い生き物のような気がした。

  思春期のわたしは、とても卑屈だったのだ。

  秋刀魚が青い光を発して、女から男へと渡される。

  あちこちで見られる光景だった。生々しく、光る青とぬめりのある肌、ピンクに発色した腕があちこちに。

  祖母の遺影に線香をあげて、そんなことを思い出した。

  わたしの秋刀魚は誰にも渡らずに、ランドセルの奥で腐ったように静かだった。

  月の光を浴びて、そのまま朽ちてしまえと、わたしは怒りを露わにしたまま放置したのだ。

  祖母も放置された。

  見放された中での死だった。

  少しだけ投げやりに、久しぶりだねおばあちゃんと、わたしだってたまには泣きたいんだよ。

  そう舌打ちするのだ。


お題「バレンタイン、初めて渡した日、貰った日」