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卵を焼くために、わたしは生きているのだ

今より先に、失望も絶望もない。

忘れル

月は笑ったことがない

「最近物忘れがひどくてさあ」

「おいおい、しっかりしてよね」

「朝食のメニューは覚えてるんだけどさ、どこで食べたんだっけな」

「自宅でなくて?」

ティファニーだったかなあ」

「映画じゃん。抜群に混同してるじゃん」

「その後デパートに行ったんだよね」

「うんうん。買い物?」

「手土産にと思ってさ、なんて言ったっけ? ほら、地下の」

「デパ地下?」

「そうそうそれ。そこのなんだっけラスカルみたいなさ」

「ラスク?」

「それそれ。グーテデロワのラスク」

「ラスカルはアライグマじゃん。売ってたらやばいじゃん」

「でもってどこへ行ったんだろう」

「手土産って言うくらいだから人の家じゃない?」

「うーん。駅前で喉が渇いてなんだっけ、あの便利な店」

「コンビニ?」

「そうそうセブンイレブンに入ったんだった」

「今日のおまえ本当に話が進まないなあ」

「それで天然水を買って、店員は石塚奈美絵という女性だった」

「どうでもいいところは覚えていたりするんだ?」

「お釣りは十二円。あーでもレジのメーカー忘れた」

「気にするなよ。世界中の誰も気にしてないよ」

「角を三回曲がって、三毛猫がにゃあと鳴いたんだよな」

「まあ確実に思い出してきてはいるよね」

「そっか。小野さんだ。オノヨーコの家に来たんだ」

「いやいや、ただの小野さんでいいと思う」

「そこで何を話したんだっけな。弁証法とかそういう話かな」

「どういう成り行きで弁証法の話になるわけよ」

ポストモダンだったかな」

「哲学談義かよ」

「あ、哲学談義で思い出した」

「よかったねえ」

「あれだよ。レジスターはカシオ製だった」

「そっちかよ。どうでもいいよレジは」

「とにかく小野さんと何かを話して駅前のカフェに入ったわけさ」

「小野さんとのやり取りは飛ばしちゃっていいんだ?」

「なに飲んだんだろう。なにバックスラテだったろう」

「ほとんど正解でてるじゃない。そこだけ忘れるのも才能だよ」

「不安になってきた。バルト三国言えるかな」

「別にそれは言えなくても良いと思うけど」

エストニアラトビア、あとひとつがなー」

「がんばってよ」

「ブルマニア?」

「変態じゃん。それまずいよ」

アリタリア?」

「あー近いけどそれ飛行機のほうだわ」

「あ、飛行機で思い出した。リトアニアだ」

「破格な思い出し方だけど、まあよかったよ」

オリエンタルランドのメンバーも思い出せない」

「だったらオリエンタルランドも忘れとけよ。面倒だなあ」

「ミッキーにミニーにキムタクはいいとして」

「キムタクはよくないよ。メルヘンじゃないよ」

「なんだっけ、マノン?」

「それ教育テレビの地味なアニメだよ。誰も知らないよ」

グーフィーが犬でプルートも犬?」

「そうそう調子いい」

「アヒルみたいなのが分からないなあ」

「ダッグだよ」

「あーそっか。ペキン?」

「それ美味しいほうのダッグだよ」

「じゃあマクドナルドダッグ?」

「余計なのついちゃってるって」

マクドナルド?」

「必要なの取れちゃったよ」

「いちいちうるさいなあ。だいたいあんた誰よ」

「おい。しっかりしろよ」