卵を焼くために、わたしは生きているのだ

今より先に、失望も絶望もない。

死神

「やばいよやばい。トイレのドアノブが取れるくらいやばい」
 
「どうしたんだよ落ち着けよ」
 
「さっきね、死神に宣告された」
 
「えー。ドアノブと比較にならないじゃん」
 
「いや、トイレのドアノブもかなりのやばさだよ。だって出られないんだよ?」
 
「いやいや死神でしょうって。死の宣告でしょ?」
 
「トイレから出られないってどんだけ過酷な密室よ。まあ水は確保できるけどさ」
 
「うーん。そんな長期戦にはならない気がする」
 
「じゃあ訂正する。周りが銀の皿を電子レンジにかけちゃったくらいやばい」
 
「それも微妙だよ。バチバチなるけど微妙だよ」
 
「面倒だなあ。盆と正月が一緒に来たくらいやばい」
 
「それ忙しいだけじゃん」
 
黒木瞳に告白されたくらいやばい」
 
「あ、それならなんかわかる。やばいね」
 
「でしょう? やばいでしょ? 揚げないから揚げ粉をつけたのに揚げちゃったくらいやばい」
 
「いや、それはよく解らない」
 
「どうせなら黒木瞳がよかったよー」
 
「まあそうだな。死神だもんな。でも、いるんだ? 死神って」
 
「うん。駅前のローソンでさ、いきなりだよ」
 
「コンビニとかにいるものなんだ」
 
「あなたとコンビにって死の宣告された」
 
「そのフレーズはファミリーマートな気もするけど」
 
「どうしよう。とりあえず煙草やめるわ」
 
「健康増進すれば大丈夫なものだっけ」
 
「駄目だ。煙草吸わないとストレスで死ぬかも」
 
「そういうことでなくてさ。死神ってどんな感じなの」
 
「もうね、見るからに死神。浅黒くて歯が真っ白」
 
「案外健康的だね」
 
「でもって黒いスーツ」
 
「やっぱ黒かあ」
 
「ネクタイはしてなかったかな。クールデス?」
 
クールビズと間違ってるよ。涼しく殺すためとかネクタイ関係ないって」
 
「鋭い目つきでさ、あなたに死の宣告をさせていただきます」
 
「うわ。怖いなあ」
 
「今日から絶対に毎日三十品目食べよ」
 
「だからさ、健康になっても無意味な気が」
 
「じゃあなんだよ。呑んで呑んで呑まれて呑めばいいのかよ」
 
河島英五みたいなことしなくたっていいんだよ」
 
「じゃあなんだよ。幸せのトンボがほら、舌を出して笑ってら、なんていう歌詞自体意味不明だよって突っ込めばいいのかよ」
 
「絶望的に解らないよ。おまえの心境が解らないの真骨頂だよ」
 
「え? 烏骨鶏?」
 
「今鶏の話とかしている場合じゃないよね」
 
「あ、そうだ。どうせ死ぬなら美香ちゃんに告白しよ」
 
「死ぬ気があればなんでもできるもんな。それなら応援する」
 
「でもさ、もし死ななかったらどうしよう。赤っ恥じゃん」
 
「大丈夫だよ。死神の宣告でしょう?」
 
「でもさー死神だってたまには失敗するかもじゃん」
 
「安心しろよ。きっと死ねるから告白してこいよ」
 
「あーお願いだから死ねますように」