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卵を焼くために、わたしは生きているのだ

今より先に、失望も絶望もない。

本を売る店

月は笑ったことがない

「ここがどこだか分かって来たんだろうな?」

「あ、はい。今日からこちらでお世話になります。よろしくおね」

「はい、は一度でいい!」

「一度しか言っていないんですけど」

「ここは一見わからないかもしれないが、本屋だ」

「ひと目でわかります」

「わかると? ほう。久しぶりに見込みのある新人だな」

「今までどんなバイト雇ってきてたんですか」

「本屋という場所は宇宙に置き換える事ができる」

「はあ」

「ブック・バンだ」

「単なる語呂合わせじゃ・・・」

「それが上官に対する態度か!」

「すみません。あの、仕事を教えてください」

「よし。ではまずおまえに問う。おまえの背表紙は何色だ」

「はい?」

「おまえという人間の背表紙を聞いているんだ」

「ええとじゃあ、青で」

「そうか。俺は白だ。なかなかの相性だな」

「よくわかりませんがほっとしました」

「まずは眼力を高めてもらう。例えばこの本、何年ものだ?」

「三年ですか?」

「惜しいなあ。惜しい。2010年発行」

「そうですか」

「まあそのうち慣れるよ。本の熟成度合いがわかるようになる」

「役に立つのでしょうか」

「バカもん。ヨムリエとか目指してないの? おまえ」

「そういう資格があることすら知りませんでした」

「あのねえ。ヨムリエてのは客に本を薦めるわけよ」

「はあ」

「最初のページをくりくりっと開いてね、いかがですか? とヨミスティング

「なるほど」

「シンチョーの7年ものでございます」

「古いのはよくない気もしますが」

「カバー掛けやってみる?」

「あ、お願いします」

「だからはいは一度でいい!」

「一度も言ってないんですけど」

「カバー掛けの基本は3つある。絶対に忘れるな」

「なるほど」

「まずはカバーを下着だと思うことだ」

「そうなんですか?」

「裸のままの本に一刻も早く肌着を身につけさせてやる。これは愛情だ」

「わかりました」

「それからこの手首の返しだ。チン・ゲン・サイのリズムだな」

「チャーシューメンでなくてですか?」

「以上だ。すべてのカバーは紙に通じる。これだけは忘れるな」

「あの、3つ目がないんですけど・・・」

「ところでおまえは本を読むのか?」

「ええ。小説が好きです」

「おーいいねー赤白どっち?」

「微妙にワインぽいですね」

「まあいいや。レジは扱ったことあるか?」

「はい。コンビニで少々」

「つけあがるな! たかがコンビニで」

「いやあの、レジはレジじゃないですか」

「じゃあこの本を打ってみろ」

「1200円です」

「円じゃない! YENだ」

「意味がわかりません」

「なかなかの手さばきだな。だが心が入っていない」

「レジ打ちに心ですか?」

「そうだ。要するにコシが重要なんだ。俺なんか足で打つ」

「製麺の話ですか?」

「あとは接客だな。やってみろ」

「いらっしゃいませ」

「おー客いないのにいらっしゃいませとか言ってるよ。うけるー」

「練習なんだから仕方ないじゃないですか」

「ええと、実は探し物をしていまして」

「はい。どのような本でしょうか」

「外はカチカチ、中はぺらぺら」

「全部そうなんですが」

「おーい。突き放すな。お客様を突き放すなー。よろこんでー、とか言え」

「なにをどう喜べって言うんですか」

「探し物はいりましたー はいよろこんでー 3卓さん探し物はいりましたー はいよろこんでー」

「居酒屋なってますけど」

「まあいい。あとは実戦だな。本番はこんなスムーズにはいかんぞ」

「こんなにてこずることはないと思いますが」

「じゃあ本の番よろしく」

「サボリにいくのかよ」