卵を焼くために、わたしは生きているのだ

今より先に、失望も絶望もない。

動物の町

僕の引っ越してきたこの村には、僕のことを詮索するような人物はいない。
 
この村には極端に人間は少ない。大多数は動物たちであり、彼らは過去に対する執着心が少ない気がする。
 
だから僕にとっては、この村は居心地がよい。
 
真夏日は連日続いていて、僕は朝から道に水を撒いていた。
 
「それってさ」頭上から声がして僕は見上げる。「それって意味あるのかなあ」
 
カラフルなオウムだった。
 
もう一匹つがいのオウムがいて、いつもどちらか判別できないでいる。
 
「ないかなあ」僕は見上げながら返す。
 
アスファルトじゃないもんね」
 
そう言われて、足元を見る。でこぼこの土が水を含んで焦げ茶色となっている。
 
「都会暮らしが長かったからね」
 
「都会ってのはどんなとこ?」
 
「うーん。ビルがたくさんあって、お店もあきれるほどあって、夜も昼みたいに明るくて」
 
「一日中明るいの?」
 
「そうだね。人が恐ろしいほどたくさんいて」たくさんいて、そこで少し僕は考えた。「だけど、孤独なところかなあ」
 
僕がそう言うと、インコはクククと笑った。
 
「あなたは今だって孤独そうだけど」
 
「まあね。ここには人が少ないからね。でも大勢の中でひとりぼっちの方が孤独ってのは深まるものなんだよ」
 
「ふうん。人間って孤独が好きなのかなあ」
 
そう言い残して、オウムは東の方へ飛んでいった。
 
朝食の用意だけすると、日課のジョギングに出かけた。
 
山道を下ると港がある。夫婦で身を寄せ合って泳ぐイルカに手を振ると、カツカツと鳴いた。
 
「こんな暑いのにがんばるねえ」とイルカは言った。
 
「サボるとくせになるから」僕はそう答えた。
 
「人間はストレスってのがすごいみたいだもんね」
 
「そうだけどさ、きみたちは泳いでストレス解消にならないの?」
 
「ふふふ」イルカは笑う。「なんのためにとか、わたしたちはそもそも考えないの」
 
僕は笑いながら、手を上げて走り去った。
 
折り返し地点の公園には、ビーグル犬がいた。その上に猫、雄鶏が乗っていた。
 
息を切らしながら彼らに近づくと、「なんだい? ブレーメンの音楽隊?」と言った。
 
「とってもいい歌詞が浮かんでね、三匹で曲を考えてたんだ」
 
「へえ。どんな歌詞?」
 
 絶望している鷲がいた みなぎる曲を奏でてあげる
 
 悲嘆にくれてる猿がいた 花咲く曲を奏でてあげる
 
 踊ってはしゃぐロバがいた 祝福をこめて奏でてあげる
 
 動物狩りする人がいた 僕らは無力な音楽隊
 
「なんか最後が悲しいな」
 
「そうだね。過去にそういう事件があったからさ、忘れないようにと思って」
 
残念そうに、犬が言った。
 
「この島にそんな酷い人間もいたんだね」
 
「ねえねえ、人間はなぜいつもひとりでいるの?」
 
雄鶏が尋ねてきた。
 
「なぜだろう。人が少ないからかな、それとも孤独が好きなのかな」
 
「僕らみたいにいつも一緒にいれば良いのに」
 
猫が言った。もっともだなと、僕も同感だった。
 
「そうだね。そうありたいな」
 
僕は歌詞のお礼を言い、「良い曲ができたら聞かせてね」と言い残し、そしてまた走り出した。