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卵を焼くために、わたしは生きているのだ

今より先に、失望も絶望もない。

プロポーズ

月は笑ったことがない
「結婚してくれる?」
 
「結婚は墓場に入るみたいなものっていうじゃない」
 
「あ、うん。すごい切り返しだよね」
 
「とするとさ、結婚式は8月15日がいいのかしら」
 
「一応オーケーしてくれたってことなのかな」
 
「まてよ。わたしたちの地域だと7月15日かなあ」
 
「お盆に結婚式やる必要はないと思う」
 
「喪服もってないなー」
 
「だからさ、墓場は忘れよう」
 
「式はキリスト式? 神式? まさか個人葬?」
 
「まあほら、教会式でいいんじゃないかな」
 
「新居のことも考えないとね」
 
「うん。せっかくだから新築のマンションでも買いたいね」
 
「永代使用権ついているところがいいなあ」
 
「うん。まあ普通に所有権って言葉で良いと思う」
 
「結婚には三つの袋が必要なのよね」
 
「いきなり定番な話をするんだね」
 
「なんだっけ。レジ袋と買い物袋と、思い出せない」
 
エコロジーだよね。結婚関係ないよね」
 
「家事の分担も決めましょうね」
 
「そうだね。僕もいろいろと手伝うつもりだよ」
 
「冷蔵室にしまう係と出す係と、あ、冷凍庫と野菜室も決めないとかあ」
 
「細かすぎるよね。すんごい搬出入作業風景みたくなっちゃうよね」
 
「じゃあなに? あなたが作ってわたしが食べる役?」
 
「極端すぎるし。もはや分担じゃないし」
 
「あなたがお風呂入れてわたしが入る?」
 
「それも僕だけ損してるじゃない」
 
「ゴミ出しはあなたでいいかしら」
 
「うん。そういう男の人たくさんいるもんね」
 
「でもだめか。ゴミ出しがゴミになる可能性がある」
 
「ミイラ取りみたいなこと言わないでよ」
 
「あなたは掃除かな。掃除機好きでしょう?」
 
「特に好きということもないけど」
 
「わたしと掃除機、どっちを取るの、とか言ってみたいわ」
 
「言う機会ないと思う」
 
「挙句の果ては掃除機離婚かあ」
 
「なにひとりで妄想してるのさ」
 
「新婚旅行どこに行きましょうね」
 
「そうだねえ。タヒチとかモルディブとかいいよねえ」
 
「えーめちゃめちゃ暖かい。遊ぶ場所しかないじゃない」
 
「最高の条件じゃない」
 
アフガニスタンとかシリアとかかと思ったのに」
 
「命がけで行く必要はないよね」
 
「そういう特殊な条件下で結ばれたふたりって別れやすいんだって」
 
「だから余計に意味ないじゃん」
 
「さきからその手に持っているものなあに? まさか」
 
「うん。なかなかタイミングがつかめなくて、婚約指輪なんだけど」
 
「なんだー。数珠じゃないんだ」
 
「墓場忘れよう」