卵を焼くために、わたしは生きているのだ

今より先に、失望も絶望もない。

電気男

 

電気男は危険な人物だと、そういう人は多かった。

彼は常に放電しているため、子どもたちは近づかないように、と教わった。

絶縁体に覆われた小さな家に、電気男は住んでいる。

わたしは幾度か電気男と話したことがある。

「大変ですね」わたしは挨拶代わりにそう声をかけた。

彼は当時家電量販店に勤めていて、携帯電話や電動アシスト自転車等の充電を行っていた。

「いえいえ。とんでもない」電気男は遠慮がちに笑った。「こうして仕事をさせていただけるだけ幸せですよ」

「自然と電気がでているの?」

「はい。あまり溜め込むと空中放電しかねませんから、ちょうど良い仕事です」

せっかくなので、わたしは持参していたデジタルカメラを充電してもらった。

町の人が言うほど、彼は悪い人間ではなかった。

生まれつき電気男は電気を帯びていたという。母親は微弱ながら感電しつつ必死に育児をしたのだそうだ。

電気男はそう話してくれた。だから両親にとても感謝していると。

学校では虐めを受けることも多かった。

成長と共に発電量も多くなり、彼に触れると痛みを感じるほどの感電をするため、自然と虐めはやんだ。

その代わりに孤独な毎日が始まった。

彼だけは水泳はもちろん、対人接触を伴うほとんどの運動は禁じられた。

不気味に思う人がほとんどで、友達は全くできなかった。

わたしは用もないのに家電量販店に足を運ぶようになった。

携帯電話の充電をお願いすると、しばし会話を楽しむのだった。

電気男の評価が一変した事件が起きた。

家電量販店のすぐそばで、心臓に不調を訴えながら男性が倒れ、野次馬が取り囲んだ。

誰かが「救急車!」と叫ぶと、他の誰かがすぐに呼ぶのだが、なかなか救急車は来ない。

「たいへん、人が倒れたみたい」わたしは口に手をあてて言った。声はかすれていた。

電気男の行動は早かった。

「来てください。倒れている人の脈を確認してください」そう言った。

わたしは恐怖心で一杯だったが、指示通り男性の首筋に指をあてた。

「ない」泣きそうだった。

「では代わります」電気男は迷いなく手のひらを男性の胸にあてた。

幾度かそれを繰り返すと、男性は意識を取り戻した。

歓声が上がって、電気男は拍手までされていた。

照れくさそうに顔を赤くして、彼は笑ったのだった。

電力供給が不安定になった時期にも彼は奮闘した。

送電線を持ち、二日間にわたって電気を流し続けた。

これには町中の人々が感謝し、交代で食事や水や、励ましや感謝の言葉を伝えに行った。

「ねえ、大丈夫なの?」わたしは心配になった。明らかに電気男はやつれていた。膨大な量の電気を流すことは想像以上にたいへんなはずだ。

「少し堪えますね。でも町の人は喜んでくれています。停電なんて淋しいですから」

これで彼もこの町の一員として完全に受け入れられるだろう。そう思うと嬉しかった。

夏の終わりに落雷事故があった。

川べりをランニングしていた女性が被害にあった。一命は取り留めたものの、重症だと聞いた。

町の人たちは手のひらを返したように彼をなじった。

だから電気を発する男なんて危険だと言ったんだ。

あれは雷なんかじゃない。あの男がやったんだ。

すぐに警察に知らせよう。あんな危険人物を放ってはおけない。

なんて言い草だと、わたしは怒りを覚えた。自分たちと違うというだけで迫害する。きっと誰かが通報して、警察もここぞとばかりに逮捕するつもりなのだ。

わたしは電気男の家へと走った。

すでにパトカーが止まっていて、電気男は後部座席に乗り込ませられる間際だった。

「なんで」わたしは走りながら叫んだ。「なんで彼は悪いことなんてしてないのに」

電気男は薄い笑いを浮かべて、口だけを動かした。

これがわたしの人生です。

そう言っているように見えた。