読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

卵を焼くために、わたしは生きているのだ

今より先に、失望も絶望もない。

近所のブラックホール

追憶の展覧会

二丁目の公園が立ち入り禁止になった。

公園をぐるっと一周するように仰々しく黄色いテープが貼られ、「危険」という文字が連続で書かれていた。

ニュース番組のトップでこの公園が紹介されたのが一昨日のことである。

見慣れた公園がテレビに映っていて、わたしは思わず「あれれ」と口にした。

夫も「あれれ」と鸚鵡返しに言い、息子は「公園だ」と言った。

ブラックホールが発見された、とキャスターは言った。

規模は小さいものの、公園中央部噴水広場付近にブラックホールが発見されました。

ブラックホールだって」夫は笑った。

「それって危険なんじゃない?」わたしはいまいち状況が飲み込めない。

「なあにブラックホールって」と息子は興味深々だ。

映像が切り替わった。録画映像だ。黒い円形の、渦巻きのような染みのようなものがあり、噴水やベンチや芝生やらが吸い込まれていって、止まった。

竜巻に巻き込まれたようにぐるぐると引き込まれるのだが、染みに重なったあたりで止まったのだ。

「うーん。どうしよう」夫は言う。

「とにかくあの公園に入ったらダメよ」わたしはふたりに言う。特に息子に向かって。

「はあい」と素直な返事が聞こえる。

公園前は連日多くの人で賑わっていた。取材陣や野次馬や、出店まででる始末だ。

わたしはというと、スーパーで買い物帰りに遠回りして寄る習慣がついてしまった。ふたりには近づくなと言ったのに。

二つ目のブラックホールが発見された。

やはりニュースのトップで紹介された。

公園の東側に小規模のブラックホールが出現しました。とキャスターは興奮して言った。

専門家は二つのブラックホールが合体するようなことがあると、大質量のブラックホールに変異する可能性がある、と指摘していた。

「そうなるとどうなるわけさ」夫は意味が分からないらしい。

「まずいみたい。公園より外も吸い込まれるって」わたしは立ち聞きした噂話を口にする。

「近づいたらダメ」息子は忠実に、自分に言い聞かせるようにそう言った。

映像が流れる。先日吸い込まれた噴水やベンチはしばらく止まっていたが、やがて赤い色に変色し、消えた。

どこにいったのかしら。わたしは白米を口に運びながら思う。

「やがて可視光から赤外線、電波へと移り変わって」と専門家が言う。

わたしもどこか、どこか向こう側へいけるのかしら。

切り干し大根を咀嚼しながら、想像する。ここではないどこかへ。

テープをくぐって公園へ踏み込むわたしを、思わずにはいられない。