卵を焼くために、わたしは生きているのだ

今より先に、失望も絶望もない。

冬のリビエラ

「僕らがわかれなきゃならない理由」

「え?」

「だからさ、別れる理由なんだけど」

「ええ」

「その、サイゼリアのせいっていうのが、やはりわからないんだ」

「そうね。あなたはいつだって細かいことは考えない人だった」

「なぜ、サイゼリアなんだ? 性格の不一致とかでなく? ファミレスじゃないか」

「そうやってファミレスを見下している、きっとあなたはファミレスなんてせいぜい中央キッチンで調理して、それを各店舗に配送して、実店舗で温めるだけ。包丁すら使わないって思っている」

「まあ、それは思ってる」

「事実よ」

「は? 事実なんだ」

「そう。ファミレスなんて場所はね、調理なんてしていないも同然。ただ温めて家畜に餌を提供するように客に出来合いのものを」

「まて。それ待って。普通に僕より失礼じゃん」

「あなたはそんなサイゼリアを見下している」

「あのまあ、なんというか、立ち位置がわからないや」

「結着剤を使って肉と植物性のタンパク質をくっつけて、それでステーキだなんて誤魔化しているのが外食産業の実情」

「もしもし?」

「養殖された魚の実情を知っているの? あなたは」

「あのさ、なんという」

抗生物質を過剰に与えて、病気にならないようにと、育てられたミュータントのような魚たち。ヨーロッパではね、養殖のサーモンは年間二回までしか食べてはいけないなんて研究結果も出ていて」

「もはやなんの話なのか分からない」

「別れ話よ!」

「だから余計に混乱するんだけど」

「あなたはフォアグラを美味しい美味しいと食べた」

「……かもしれないけど、それいつの話だっけ」

「世界が震撼した二千年問題、コンピューターたちの思考停止が」

「ああ、あの時。かなり昔じゃん」

「フォアグラがなにか知っていてあの発言なのかって、結婚前にあなたがわたし以外に興味を持っているお肉があるんじゃって思っていた時期だった」

「女のひと、でなくね」

「フォアグラ」

「肝臓だっけ」

「肥大した肝臓。鳥たちはチューブを喉に達するまで差し込まれて身動きも取れない状況にされたまま、栄養を送り続けられる。動けない。苦しい。涙を流し。栄養を取り続けて肝臓は肥大する。それを食べたのがあなた」

「重いな。重いのだけど、サイゼリアもはや関係なくなってるような」

「そもそもあなたが毎朝美味しいと平らげている卵だってそうなのよ。狭いケージの中で卵を産むという作業に特化させられた鳥たちの苦痛を」

「あ、あれか。もしかしてきみは動物愛護の精神が」

「ないのよ。困ったことにないのよ。犬でも猫でも必要なら食べてしまえばいいとさえ思うの」

「言葉がないんだけど」

「わたしが決めたのはあなたとはもうやっていけないということ。そしてその理由はサイゼリアだということ」

「そのサイゼリアの話題がほとんど出てこないからわからない」

「じゃあコストコでもいいわよ」

「いいわよって、業態が変わってるし」

コストコの商品なんてほとんどが高いのよ。多いのに高い」

「はあ」

「でも掘り出し物はある。クレイジーソルトやナッツ、それに考えようによっては鯖のフィーレなんかは品質も考えれば得かもしれない」

「それがなにか」

「品質というけれど、アメリカ基準の品質って、あなたなんなの?」

「いやもうきみこそなんなの? な状況で」

「遺伝子組み換え食品を最も輸入している国は日本なの」

「そうなんだ」

「そうよ。家畜の餌には遺伝子組み換え餌しか与えられていない。でもその表示義務はない。加工品だってそう。わたしたちは知らないうちに世界でトップの、遺伝子組み換え作物を受け入れている実験体に」


「ごめん。やっぱサイゼリアのことがわからな」

「もうサイゼリアどうこういっている段階ではないの!」

「やっぱそうなんだ。サイゼリア関係ないんだ。逆切れされたど、結構早い段階でサイゼリア関係なかったよね」

サイゼリアに戻るけど」

「戻した!」

「オリーブオイルの品質偽装が相次いでいるわけで」

「またそういう話なんだ」

「イタリア産トルコ産、実は加工地なだけでオリーブ自体はさてどこでしょうって、とっても不可思議なのよね」

「中国とか?」

「不可思議なのはオリーブの生産地だけでないのよ」

「え」

「わたしたちの子どもも、さて、どこの子どもなのでしょうって」

「怖いこと言うなよ」

「この子と越すとこ、考えているの」

コストコ引きずってるよね」

「悲しみを癒すツボ、押すとこもわからず、指すとこもわからず」

「やっぱコストコ

「だからわかって頂戴。あの子はわたしが育てる。なんとしても」

「まああれだ、サイゼリアは関係なかったわけだ」

お題「初めて買ったCD」