卵を焼くために、わたしは生きているのだ

今より先に、失望も絶望もない。

四月なんです

「まいったよ。豆腐の角で頭打っちゃった」

「すごいねえ。ことわざみたいなことしたねえ」

「全治二週間だって」

「どんだけ硬い豆腐だよ」

「まあそんなことはどうでもいいんだけどさ」

「いや、かなり重要な話だと思うけど」

「最近って土曜日ばかり雨だよね」

「うん。すごくどうでもいい話だね。豆腐の話を聞かせてよ」

「豆腐なんてどうでもいいじゃないのさ。木綿だよ木綿。木綿なさいだよ」

「木綿なさいが分からないけど」

「木綿なさい知らないと話が進まないだろうに」

「じゃあいいや、なんか面倒になってきた」

「あのさ、煙草をさ、やめたんだよ」

「偉いねえ。あんなにヘビースモーカーだったのに」

「ベビーカー? 乗ってないって」

「ヘビースモーカーだよ。どんな耳してんだよ」

「ああ、そっちか」

「やめるのって大変だったでしょう」

「まああれだよ。二階から胃薬だっけ? そんな感じ」

「目薬な。まあ胃薬でも大変だとは思うけどさ」

「最初の数日なんてさ、吸いたくて吸いたくて、もうお粥を飲まされるって感じ」

「煮え湯な。お粥だと普通に食事とってるだけだから」

「でも背に鼻は替えられないって思って」

「鼻はそもそも無理でしょう。腹でしょう」

「小遣いも減らされたからさあ」

「ボーナスも給料も削減だもんね」

「いやいや、トーマスは主人公だから削減ないって」

「なんか逐一聞き間違えられると腹立つな」

「でさ、ない袖は振れないじゃん?」

「あ、うん。なんか急に間違えないと調子狂うな」

「ついでにお酒もやめたいけど、ちょっと無理だなあ」

「まあね。楽しみがなくなっちゃうもんね」

「でも女房は減らせってうるさくてさ、毎晩鬼のいぬ間に電卓だよ」

「計算してどうすんだよ。洗濯しなさいよ」

「さっきからちょいちょい話の腰を折ってくるよね」

「だってさ、間違ってるんだもん」

「おまえも煙草なんてやめればいいのに」

「難しいなあ。ストレスが溜まるからさあ」

「ほら、酢に交われば柔らかくなるだっけ?」

「朱に交われば赤くなるだろ? もはや南蛮漬けの理論じゃん」

「まあそういう感じでさ、俺を見習って禁煙しなよ」

「なんか説得力に欠けるんだよなあ」

 

sgtub