卵を焼くために、わたしは生きているのだ

今より先に、失望も絶望もない。

わたしは彼を救えなかった

 くよくよするんじゃないよと、そうわたしは言った。
 言ったけれども、直後に無責任な発言だと思った。
 彼は納期を間違って発注をして、四日後に必要な備品がどうあがいても一週間の時間を待たなければ納品されないのだった。
 雨が降っていた。
 慰めるのではなく、彼の代わりに泣いているような空だった。
 彼は窓辺に立って、お昼ご飯も食べずに空を見上げていた。
 わたしはサラダを食べて、おにぎりを食べて、そこで初めて彼が泣いていることを知った。
 泣くことではない。
 厳しく言えば、泣いても解決しない。いや、そうでなく、わたしが言いたいのは、泣いてはいけないと、泣いたら負けだと、いや、泣かずに前を向こうと、まだ負けたわけじゃないと、負けてないのか、そうなのかと、自問自答するのだった。
 わたしたちはとても厳しい世界に生きているのではないか。
 黒い空に問いかけた。
 なぜ彼は泣いているのか。
 わたしは彼を叱りたいのか、助けたいのか。そもそも現状は理不尽に人が死んでいく内戦地域のような環境ではなくて、たかが発注ミスでどれほどの損害があるのか。
 みな生きているではないかと、けれど狭い現実社会では、彼は失敗を犯し、わたしは監督責任を問われるのだった。
 空は黒かった。
 わたしは下を向いていた。
 彼は泣いていた。
 言葉のない、音のない空間に、ただ悲しみだけがあった。
 打ち砕くもの、切りひらくものが欲しかった。
 カラスが舞っていた。
 遠くからピアノの安定しない旋律が聞こえた。
 電車の走行音も聞こえた。
 そこにあるのはわたしの無力感と、彼の絶望であって、けれど今わたしたちの世界のどこに絶望するのか、そういう不条理があって、そのもっと手前に、わたしたちを馬鹿にするように鳩時計がお昼を知らせるのだった。

 

 

今週のお題「印象に残っている新人」