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卵を焼くために、わたしは生きているのだ

今より先に、失望も絶望もない。

Gとの闘い。そして束縛からの卒業。

犬や猫はとても可愛い。
あの可愛さは異常だ。
それと対極に位置するのが、もちろん誰しもが大嫌いであろうGである。
もうね、名前を書くだけで気持ち悪いので、Gとする。あの昆虫である。
去年は一度も遭遇しなかった。平穏な一年であった。
しかし一昨年は一度だけ、家の中に出てしまった。
出てしまったら戦わなければならない。壮絶な戦いのことを、書いてみたいと思う。

その日わたしはのんびりとソファに座って、ぐびぐびとお酒を飲んでいた。
ツレが壁の一点を指差して、目で合図を送ってくる。わたしはすぐに危険を察知した。
この場合、ヨネスケが家にやって来たか、Gが出現したか、どちらかに違いないのだ。
すぐに立ち上がって部屋の扉を閉めつつ、確認するとやはりいた。やや大きなGが恐るべき速度で歩いている。
なんなのだあのスピードは。バイオハザードか。
せめて動きが遅いならまだ勝機満載なのに、ああも機敏では人類に勝ち目はないではないか。
わたしは悲鳴を上げながら、とりあえずここは白兵戦を諦め、化学兵器で応戦することに決める。
ツレにGジェットを持って来るよう指示し、Gを見失わないようにドアの隙間から動きを追う。
「持ってきたよ」
「じゃあ行ってきて。なるべく至近距離からこれでもかって」
「自分で行ってよ!」
「なんでよ。怖いよ!」
「こっちも怖いよ!」
とひとしきり言い争いとなり、まあなんと役に立たない人間だとため息をつく。
もうね、こういうときに戦えないようなやつはどんぐりころころお池にはまってさあ大変になればよろしい。
MARKS&WEBのペパーミントの入浴剤を入れすぎて、真夏なのにぶるぶる震えながら入浴すればよろしい。
あ、これはわたしの実体験である。凄まじく寒くなるのである。ぜひ皆様も試してみて欲しい。
ということでわたしが噴射しなければならず、さすがにドアからでは届かないので、部屋に入る。
Gと同じ部屋にいると考えただけで足がすくんだ。もうね、汗でびっしょり。ぽたぽたと垂れる始末で、それくらい恐怖なのである。
動きを止めているGに近づき、脱出経路を確認する。ツレが青い顔でこちらを見ている。
もしもだ、もしもわたしがそっちへ走っていくのにドアを閉めようものなら本当に殺そうと誓った。
4秒ほどGジェットを浴びせるとすぐに逃走体勢へと移行した、その瞬間、Gが飛んだ。

 


ブリューゲル、飛んだ。

 

なんなのだ。

 

もう見た目だけで最悪なのに、足は速いし、よりによって飛ぶ。
なぜ飛ぶ。というかGジェットももっと効き目があっても良いではないか。

わたしは叫びながらドアへと走り、部屋の外にでた途端にツレがドアを閉めた。
なかなかいいタイミングであった。
これでGとわたしは完全に隔離された状況である。ひと安心だが、ここからがまた怖い。
5分待って捜索活動に入るわけだが、致命傷となっていれば良いが、まだまだ普通に元気だった場合、先ほど以上の恐怖を感じるであろう。
ありがちな90年代の洋画である。えー生きてたの的な。

よりによってチェーンソーで殺しって、案外音も大きいしリスク大きいんじゃねって。
もちろん息絶えていたとしても、ティッシュを何重にもしないと触れない。
この捜索作業もわたしひとりで行うことになった。
なんなのだ。
こういうときに前線に立てないのなら、もはや存在価値がないではないか。
悪態をつきながら床を慎重に見てみると、まだかすかに手足を動かすGがいた。
どうすればよいのだ。
ここで確保しないと回復してしまうのか、もう少し待てば動かなくなるのか。
もうパニックである。
円高と先物取引と銀行からの融資拒絶と粉飾決算がいっぺんに来たようなパニックである。
異様な枚数のティッシュを上にかけて、ビニール袋を横に置き、そのままスライドさせるようにビニールへ移動させる。
とにかく確保した。ビニールを縛り、さらに大きな半透明のビニールに入れて縛る。
こうして2016年の戦いは幕を閉じたのだった。

 

なんの話なのだ?