卵を焼くために、わたしは生きているのだ

今より先に、失望も絶望もない。

氷女

特別お題「心温まるマナーの話」by JR西日本 電車の中で悪寒が止まらなくなり、まだ診療時間ならば町医者に寄って行こうと思った。 電車は酷く混み合っていた。通勤電車に揺られているこの時間が、人生で最も無駄な時間であると思う。 悪寒ではなく、背中を…

食品添加物

食品添加物には賛否両論ある。 賛成派の意見はこうだ。 そもそも食品添加物というといかにも化学的な、不気味な添加物という印象を与えるが、これらがなければ食中毒が蔓延してしまう。食べ物は保存がきかないからすぐに腐り、健康被害は増大する。 食品を美…

教師の問題

「まさかおまえが教師になるなんてなあ」 「だろう? 俺だっておまえがフランス人になるなんて」 「なっていないし。これまでもこれからも日本人だし」 「そうなんだ。ごめん、勘違いしてた」 「そろそろ試験問題つくるんだろう?」 「そうそう、問題がなか…

星々の残像

お題「好きな街」 夫婦で温泉に来るのは、実に四年振りだった。 ひとり息子を妻の実家に面倒を見てもらって、山奥の温泉に来たのだった。 妻は育児に追われ、僕は会社の打ち出した人員削減によって仕事ばかりの日々が続いた。 その歳月を振り返ってみると、…

感情の代償

感情を表に出してはいけない。わたしは毎日心がけている。 先日のことだが、無理難題を吹きかけてくる上司に、つい反抗してしまったのだ。 こんなことばかりできませんと、声を荒らげてしまった。 その夕方に、国民的アニメであるサザエさんの放映中止が決ま…

国名の漢字表記を見直してみる

国名を漢字で表記する場合があります。 イギリスなら英国、アメリカなら米国。このあたりはすっかりお馴染みですね。 インドの印やフィリピンの比くらいになると、たまに目にするなあというレベルですね。 よく見ると結構ひどいのもありまして、トルコなんか…

嫌いなもの

才知と美貌、そして使い切れない財産を持っている。これは揺るぎようのない事実なのだから仕方ない。 そんなわたしでも、たくさんの嫌いなものがある。 嫌いなものの話をされると、えてして聞き手は不愉快になるものだ。 だから今日はあえて嫌いな物事を書い…

あの子がいた町

その日は僕らの家で人気者だったペルが帰ってくる日だった。なんで帰ってくるとわかったのかって思うかもしれないけど、数日前から鳴き声がしたんだ。お母さんもお父さんもペルの鳴き声を聞いたし、もちろん僕もワワンを聞いた。ペルが久しぶりにくるんだか…

わしたちの帰る場所

甘党だというわたしに、自分はブドウ糖だと言い張る友人がいるのだ。 そういう観点の話ではないのだ。 わたしはタイ旅行で日本人に道を聞かれたことがあるのだ。 さらにタイ人にタイ語で話しかけられたときには、帰化も考えたのだ。 要するに、で始まる話は…

お花見

「やっぱり桜っていいよね」 「そうくる? いきなりオチ言っちゃう?」 「別にオチでもなんでもないよ。桜だよ」 「あーそっちの桜ね」 「他にどんな桜があるんだよ」 「いやほら、アップルの新製品の行列の話かと思ったよ」 「周り見ろよ。満開じゃんかよ。…

紙人間

瑞希の得意料理は餃子だった。 餡を手早く包み、ひとつの餃子にヒダが五つ、規則的についていた。 「本当はヒダヒダなんてなくて、ぴたっと閉じちゃうともっと美味しいらしいんだけどね」 「そうなの? そっちの方が楽じゃん」 「見た目が可愛くてね」そう言…

市ノ瀬さんの塔 

市ノ瀬さんが塔を作り始めたと妻が言った。庭いじりが趣味な市ノ瀬さんだから、新しい盆栽かなにかのことかと思った。 「聞いてる?」 「塔でしょ。ふーん」とほとんど聞き流してしまったが、実際にお隣の市ノ瀬さん宅を見て驚いた。高さは三メートルくらい…

奇跡の料理人

秋葉原邦彦という料理人をご存じだろうか。 ほとんどの人が電気街の秋葉原と同じ苗字だね、そんな認識であろう。 ミシュランガイドで星を獲得したわけではない。そもそも自身の店すら出店していない。 職業料理人にはならなかった男である。 ではなぜわたし…

朝と夜の狭間に、わたしは走っているのだ。

ジョギングが好きだ。 たいして早くもないし、距離もそれほど走らない。素人の、遊び程度のジョギングなのだが、毎朝できる限り走るようにしている。 走る人を不思議だと思っていた。 苦しい思いをして、なぜ走るのか。 大会ともなればお金を払って、フルマ…

プラントランド

今週のお題「植物大好き」 かれこれメールのやり取りは半年も続いていた。テクノロジーが常に進化していくのは人間の進歩でもある。だから頭ごなしに否定するわけではない。しかし文字のやり取りで人間関係を育むというのは、どこか違うのではという部分もあ…

生き物を殺さない、ということ。

わたしはこのブログを書くにあたって、読み直しをしていない。 だからこのヴィーガンというカテゴリは、何度も同じようなことを書いている可能性はあるのだが、気にしないでほしい。 適当な性格なのだ。そうやって開き直って、今日も同じことを書くのだ。 食…

情熱のサポーター 

穏やかに進んでいた夕食が突然怒号へと変わったのは、このひと言だった。「モンターニュ世田谷です」婚約者の石川さんは素直にそう打ち明けた。結婚ともなれば隠し通すのは難しい。興信所で調べればすぐに分かってしまうことだから。そしてこの言葉が父の逆…

壁男

壁男 近所の公園に、その壁は造られた。 誰も気がつかないうちに、皆が駅前に新しくオープンしたショッピングモールに気を取られている間に、壁はできていた。 わたしは毎朝その公園を訪れる。 昨年から飼い始めたポメラニアンの散歩コースに、その公園が入…

よい子のための文学評論

羅生門 芥川龍之介 とりあえず下人も老婆も不法侵入。 伊豆の踊子 川端康成 青少年健全育成条例を適用されないための生き方とは。 走れメロス 太宰治 裸で挑むトライアスロンのドキュメンタリー。 変身 フランツ・カフカ 毒虫が毒の入っていないリンゴで死去…

行列

僕の近所の商店街に、行列ができているという話を、妻から聞いた。 「へー、なんの店なの?」と僕は新聞をめくりながら聞いた。 「分からないけど、美味しいラーメン屋さんがオープンするみたいよ」 「ラーメンねえ。行ってみる?」 「遠慮しておく。わたし…

モノクロームの世界

この街に希望はあるのだろうか。わたしは窓辺に立って、街を見下ろす。 赤ワインを立て続けに飲みながら、在庫の確認をする。チーズはとっくに手に入らないから、この頃は乾燥肉でワインをたしなんでいる。 太陽はどこにあるのだろうか。明るくも暗くもない…

年齢で切りをつけるということ

40歳になったら、きっとわたしはあらゆる物事に対して、言い訳をし、新しいことは始めないだろうと感じていた。 30歳になるときには思わなかった感情だった。 30ならまだ先がある。結婚はしていたが、子どもを頂き、住居を取得し、人生における大きなイベン…

国民投票

国民投票 もう何度実施されたか分からない、その結果速報がテレビから流れた。 今回は子どもの名前についてだ。 僕と千恵は男の子であろうと女の子であろうと、名前の候補を一切考えていなかった。 考えるだけ無駄だからだ。 テレビの速報では、「一位 祐樹 …

サポーター

穏やかに進んでいた夕食が突然怒号へと変わったのは、このひと言だった。 「モンターニュ世田谷です」 婚約者の石川さんは素直にそう打ち明けた。 結婚ともなれば隠し通すのは難しい。興信所で調べればすぐに分かってしまうことだから。 そしてこの言葉が父…

捕まりたい男

会社を首になり妻に逃げられ、ギャンブルに溺れたらとんでもない借金を抱えてしまった。 もう死んでしまおう。四十二歳にして、僕の人生は何の価値もない、ゴミのようなものになってしまった。 選んだビルの屋上は、春のさわやかな風が吹いていた。遠くの山…

あの人の見ていた海。わたしの見た海。

潮干狩りに行ってきた。 何十年ぶりだろうか、もはやこの世界に潮干狩りという行動があることすら忘れていた。 貝を掘って、お金を払って砂だらけになって遠方まで行って帰ってくる? まったく理解できなかった。 スーパーで安価にアサリなんて手に入るし、…

電気男

電気男は危険な人物だと、そういう人は多かった。 彼は常に放電しているため、子どもたちは近づかないように、と教わった。 絶縁体に覆われた小さな家に、電気男は住んでいる。 わたしは幾度か電気男と話したことがある。 「大変ですね」わたしは挨拶代わり…

美しい人

いつから希望を口にしなくなったのだろう。わたしはオープンカフェのテラス席で、ふと思った。陽射しは柔らかく、緑は吸い込まれそうな美しさで輝いている。子どもを保育園に預けて、久しぶりの休暇をこうやってひとりで楽しんでいる。「お砂糖は?」「結構…

東京箱根間往復大学駅伝競走

九区を走る仲間から受け取ったキュウリを、彼はしっかりと握り締めた。 ここまで百六十キロに及ぶ距離を運ばれてきたキュウリだ。 このキュウリには仲間たちの汗がしみこんでいる。 こころなしか、水分が抜けているように感じる。汗の塩分のせいだろうか。 …

かるた  その1

あ アリエールでも落ちない汚れを、わたしはいつの間にか抱えてしまった。もちろんボールドでも、無理だ。 い いつからだろうか、ハッピーターンのなにがハッピーだったのかを自問自答している。 う 歌丸さんが笑点を辞めるということは、昇天で引退という最…

子どもの可能性をつぶさないために

親になるということは難しい。 わかってはいたが、理解していた以上に難しいことに日々気づかされる。 親になる年代というのが、そもそも人間として可能性を出し切った状況であって、例えばわたしが今からプロテニスプレーヤーになれない、起業して業界を席…

ビールは結局どれが美味しいのか

日本のビールの多くはラガービールで、大麦麦芽を原料とした下面発酵酵母を使用して、低温で長期熟成させるものらしい。といきなりこんな説明をされても、無職な人はワークマンで買い物ができないの? 的な混乱を生んでしまいます。 まあもう少し続けますと…

猫の教室

猫の教室 「じゃあ新しいお友達を紹介します」 ころころ太った猫山田先生が、虎鉄に柔らかく腕をさしのべました。 虎鉄、なんて名前だけど、実はとっても恥ずかしがり屋で、どちらかといえば臆病な犬なのです。 恐る恐る顔を上げてみると、きれいな毛並みを…

なぜ勉強をするのでしょうか

今週のお題「ゴールデンウィーク2016」 なぜ勉強するのかと、子どもに聞かれた。 小学生になり、勉強はとても楽しいらしく、それはもちろん、勉強とは名ばかりの、楽しい学習をしているからなのかもしれない。 しかしずいぶん早く、「なんで勉強するの?」と…

フェルマーの最終定理

「フェルマーの最終定理というのがあってさ」 「ブルマーの悔悛定義?」 「うん。犯罪だよね。そうじゃなくてフェルマーね」 「はいはい。あれだろ? みらいのしょうがとかこなゆきコラーゲンとか」 「なんの話か解らないや」 「いやいや流行ってるの。ニッ…

あの日あなたがいた。

今週のお題「ゴールデンウィーク2016」 何気ない夜だった。 わたしは夏のかすかな熱気を感じさせる夜気に吹かれて、けたたましい音楽が漏れ出てくるバーや、笑い声の絶えない居酒屋の前を歩いていた。 とても平和な、いつもの駅前の風景だった。 八王子とい…

町の消失

家に、帰れなくなった。 もちらん僕は酔ってなどいないし、若年性の認知症でもないはずだと思っている。 朝は普通に家を出た。最寄の駅まで徒歩十二分。中学校を通過して総合病院の脇を通り、コンビニの先が駅だ。 電車では新聞を読んで途中で眠ってしまい、…

サヨナラ小さな、あの頃のわたし。

今週のお題「ゴールデンウィーク2016」 車を買った。 突然に、まるで興味のない車を、即決で買った。それには理由があって、仕事の大きな異動によって車でしか通えない僻地に移転した、表向きの理由だ。 一方で、わたしは今まで足枷をつけられたように行動範…

戦争のない世界。

世界から戦争が根絶された。 かつては誰もが願っていて、しかし決してなくならないはずの戦争が完全になくなったのだった。 もう尊い命が戦火で犠牲になることは永久にない。 僕は早朝からグラウンドを走っている。隣のグランドにいる息子に手を振る。 軽い…

子育ての矛盾

人生を振り返ることがある。 いつからだろうか、人生というものはいつだって前にしかなくて、過去を悔やむことはもちろんあるのだが、いつでも懸念や期待はまだ来ない明日だった。 明日だけを考えない年齢に、いつの間にかわたしはなったのだ。 明日ももちろ…

ゴールデンウィーク

今週のお題「ゴールデンウィーク2016」 「ついにきたね」 「きたよね。大型連休」 「まあ俺のばあいは今回に限らず連休だけどね」 「あれだよね。ニートだもんね」 「うん。雇われニートだけど」 「雇われてないよね。ちょっと見栄はっちゃった?」 「まあね…

世界のサッカーチームについて

日本人が世界に出ていくようになったのは、奥寺さんや三浦カズさんや、中田英寿たちによってすっかり定着しました。へえ、こんなチームがあるんだって、驚くことも少なくなりましたが、まだまだ世界には変わった名前のチームがあるのです。今日はそれを紹介…

一戸建てかマンションか論争

たまには、まじめな話を。 皆様は税金をご存知でしょうか。もちろん知っていると思います。 憲法にすら記載されている三大義務のひとつに、納税の義務があるほどです。 例えば人を殺した。警察に捕獲され尋問を受ける。そこに出てくるのは「黙秘権」という権…

風の男

軽薄、だからねえ。僕は。 武彦は歌うようにそんなことを言う。 ちょっと雨が降ってきたみたいだよ。そんな口調で言うのだ。 そんな軽さ。この世に重要なことなどなにもないかのような軽さを、彼はいつも身にまとっている。 だからかもしれない。わたしはど…

そもそもが、わかっていないのだ。

年齢のせいにするのは卑怯だし、そもそもわたしはブログ元年といえるころにブログを書いていたことがある。 黎明期で、まだツイッターもSNSという言葉もなかった。 わたしはとにかく皆が楽しんでもらえるような話を書きたいと、毎日思っていた。 コメント…

近所のブラックホール

二丁目の公園が立ち入り禁止になった。 公園をぐるっと一周するように仰々しく黄色いテープが貼られ、「危険」という文字が連続で書かれていた。 ニュース番組のトップでこの公園が紹介されたのが一昨日のことである。 見慣れた公園がテレビに映っていて、わ…

サッカー用語で、きちんと春の飲み会を説明してみる。

今週のお題「私がブログを書く理由」サッカー用語による飲み会の解説。 フィジカル アルコールへの耐性のことを言う。日本人は弱いとされている。 司令塔 幹事のこと。 ファンタジスタ 話が上手い人である。飲み会のクオリティを決める重要な人物とされる。 …

冬のリビエラ

「僕らがわかれなきゃならない理由」 「え?」 「だからさ、別れる理由なんだけど」 「ええ」 「その、サイゼリアのせいっていうのが、やはりわからないんだ」 「そうね。あなたはいつだって細かいことは考えない人だった」 「なぜ、サイゼリアなんだ? 性格…

例えばバーベキューで見つけた未来

バーベキューをやった。 道具を買いそろえて、自分から主体的に初めて、バーべキューをした。 たかだかな素材たちが、野外で食べるだけで格段に美味しくなることを再認識した。 公園にはいくつかのバーベキューをしている家族や団体がいて、賑やかに、煙が上…

空飛ぶオランダ人

空飛ぶオランダ人 公園でお弁当を食べていると、するすると大柄な男が近づいてきた。 よく見ると、彼の靴は地面の少し上にあって、つまり浮遊しているのだと分かった。 箸をとめたまま、どう行動すべきか考えた。警戒して逃げるべきか、それとも浮遊の原理く…