卵を焼くために、わたしは生きているのだ

今より先に、失望も絶望もない。

春がすぐそこにやってきた

「春だよね」 「春だねー。お花見いいよねえ」 「咲いてきたね」 「爆竹ドンパチで桜餅に芋焼酎、どぶろくで街練り歩くカーニバルみたいな」 「変わったお花見だよね」 「うちの地元だけ?」 「かなあ」 「パン食べまくりもないわけ? 白いお皿の」 「春のパ…

今夜、嘆いている野菜たちの声に

「料理ってのは不思議がいっぱいだよね」 「そうかな」 「里芋ってあるじゃん」 「皮むきにくいよねー」 「それ以前に田舎過ぎ。なんだよ里の芋って」 「いいじゃんかよ。山芋だってあるじゃんかよ」 「蓮根なんて神秘的な名前なのにさ、あんなの泥水の中で…

糖質制限、はじめました。

まあほら、冷やし中華的な感覚でライトに始めました。ファッションみたいなものです。とりあえず米を筆頭に、小麦製品であるパン、うどん、パスタに蕎麦、あとは糖質の高い食材であるジャガイモだとかを摂取しない内容です。春雨とかも厳禁ですね。まあ、あ…

第一回 悩み相談室

あのさ、このブログって悩み事についてのメールがたくさん届くわけよ。実は。 なんでかね。なんにもないのにね。なんにもないなんにもない。ここにはなんにもない。だって俺は空っぽなんだから。そんなことを昨日猫に言われたよって。 今日はひどい雨だ。 馬…

魚たちのバレンタインデー

学校中が生臭かった。 バレンタインデーは、つまるところこの臭いだった。 わたしの町の話だ。 もう二十年前にもなるのか。あの町は。 いいか? 同じことわ言わんよ。 国語教師は独特なイントネーションがあった。よしんばそれが正解だとしても。あるいはお…

サッカーヨーロッパ日本人動向

「清武が帰ってくることになったよね」 「残念だよな~ 小樽から札幌。そして東京へとステップアップしたのにさ」 「そうだっけ」 「まあできちゃったらごめんなさいだ。避妊できなきゃ否認も」 「北からの風吹いちゃってる。余計な風」 「だよな。せめて山…

昨日みた夢を、君は知らない。

半年が過ぎていた。 この半年の間、わたしは書くことがいつも通りにあって、だからこそひとつも文字にできなかった。同じだけの容量と質量をもって過ぎていく時間に辟易し、失望を覚えていたのかもしれないし、肉まんの中心部の熱さにひどく恐怖を覚えていた…

伊豆の夜

海が赤や黄や緑に滲んだ。 穏やかな波に光が揺れて、上空で舞うきらびやかな花火とはまた違う、とても深淵で孤独な光たちが、海面に漂っていた。 波というものは風が引き起こすものだったか。 わたしは膝を抱いたまま、テトラポッドに打ち付ける波の音を聞き…

100

「100万円手に入ったらどうする? だって」 「どうもこうもないだろう。まずは入手経路を塞いで犯行当日の証拠を」 「おい。何の話だ」 「あ、そっか。先走った。妻との協議離婚進まない前提だった」 「ひとまず前提なくそう。あんたは平和な家庭を築いて…

念、じる

「なんかさ、ちょっとした能力が手に入っちゃった」 「え、まさか一夜にして大型バスを運転できるようになったとか?」 「いやね、そこまでちょっとしたことではないんだ」 「そしたらあれ? 大根のかつら剥きができるようにとか?」 「もっと些細になってる…

夏休み

「黄金週間は良かったよねえ。もうエバラだよね」 「まあ休みってのはいいよね」 「でしょう。エバラでしょう」 「そこはもう無視ね。で、どこか行ったの?」 「実家に帰ろうかと思ったんだけどさ、分からなくなっちゃって」 「はい? 分からないんだ。実家…

十一時間

自然の作り出すコントラストは、偶発的な奇跡だといえる。 夏子は少し肌寒い風に頬を撫でられながら、影絵のような島と赤と青が入り乱れた空に見入っていた。船はこれから二つの島を経由して、およそ十一時間後に東京に辿り着く。 十一時間分の距離こそが、…

五月病

「医者の診断によると五月病だってさ」「へー。正式な診断でそんなことあるんだ」「まったく意欲がでなくて困るよ」「なんせ七月にその病名くることに驚いたさ」「気力メーターがゼロ。ゼロリアンでタイムスリップ的な感じ」「うん。わからない。でもまあ無…

尾崎豊の幻影。とは言ってはいけない。

尾崎豊さんの息子さんが、生演奏で熱唱したと聞き、慌ててユーチューブというサイトで確認しました。 素敵な歌声でした。 もちろん彼の中の葛藤や、見えない幻影や、追いつけないどころか、追いかけたくもないのに追いかけなければいけないと叩かれる心境は…

得意料理

「得意な料理ってある?」 「肉じゃがにあえて肉を入れないという肉じゃないじゃがオンリーみたいな」 「特異な料理じゃないんだ。最初からやれやれなのは困るんだ」 「得意料理ってさ、肉じゃがだとか煮魚、イカと里芋の煮物とか、そういうのがもてはやされ…

お母さんデパート

蝉が鳴き始めた頃に、お母さん専門店へ連れて行ってもらった。 父は朝からそわそわしていて、「嬉しいか? お母さんくるんだぞ?」と幾度も尋ねてきた。嬉しいのは父であって、どちらかといえばわたしは母という存在を購入すること自体、なにかが間違ってい…

雨が消す駅と僕と。

暴力的な、という表現がぴったりな雨だった。 とめどなく雨粒たちは路面に叩きつけられ、町全体がけぶっている。 雨筋で視界すら狭まってしまった感覚にとらわれる。 小さな駅だ。 僕は外に出ることはあきらめて、構内のベンチに腰掛けた。 自動改札は六つ。…

終えて、選挙。

「スーパークールビズっていうとさ、なんかもう紐だよね」 「だね。紐で隠すだけ隠すみたいな」 「もはや戦後だよ」 「戦後かもしれない」 「今日さ、朝から鳩がぽーぽーって、鳴いていたんだ」 「あるよね。ぽーぽー。ぽっぽー。のリズム」 「一定のね。で…

東京都知事選挙

「出ようかと思ってる。出馬」 「おい! まさか有馬?」 「いやね、異種じゃん。異種だし、お馬さんに勝てる気はしないんだ」 「じゃあ何に出るのさ。まさかAKB!」 「もっと正当なさ、知事選」 「おいおい。冗談はシューズだけにしろよー」 「マイケル・…

本棚という宇宙

今週のお題「わたしの本棚」 安い組み立て棚だった。初めて自分で買って組み立てた、ホームセンターで買った本棚だった。 そこに好きな本を収納していった。筒井康隆が構えて、太宰治が鎮座して、阿部公房に庄野順三、そこからアガサクリスティ、ポールオー…

お茶で会いましょう

『お茶が、好きなんですか?』 その紙切れを見つけたとき、わたしは反射的に周囲を見渡した。静かな市立図書館には、適度な数の人がいた。寂れているわけでもなく、混雑してもいなくて、ゆっくりと本を選ぶには最適な状況だった。 手に取った本は紅茶や日本…

忘れル

「最近物忘れがひどくてさあ」 「おいおい、しっかりしてよね」 「朝食のメニューは覚えてるんだけどさ、どこで食べたんだっけな」 「自宅でなくて?」 「ティファニーだったかなあ」 「映画じゃん。抜群に混同してるじゃん」 「その後デパートに行ったんだ…

走ったとして、なにがあるのか。

走ることについて、わたしはずっと不思議に思っていた。そもそも小学生のころ、マラソン大会と称される催しが苦痛で苦痛で、それ以来だろうか、走るという行為に絶望していた。 思えば、小学生の頃に決定的に嫌いになったことは、意外に多い。 小学校だから…

100万円もしくは6億円、いずれにしても物語だ。

100万円あったらどうするか。 あるある。なんだろうか、人間の○○だったら欲望はいつの時代も興隆を極めてきた。 宝くじ当たったらどうするか。 「そりゃあ旦那なんて別れて、伊豆に別荘買って六本木のマンションも買って、世界一周旅行するわ!」 すでに…

わたしに未来を見出すということ

毎回大反響を頂いているエセーを、今回もお届けしようと思う。わたしは人から相談されることが極端に少ない。先日会社の飲み会で、「どうしたら結婚できますか?」と久しぶりに相談を受けたので、「役所に書類出せばできるよ」と教えてあげたのだ。このよう…

結婚願望

「このところ結婚したくなってさ」 「そういう年頃だもんねえ」 「役所行って書類出してこようかな」 「あのさ、その前に相手が必要な気がする」 「そっか。そこ忘れてた」 「劇的に重要な問題だよね。どんな人が好みなのさ」 「うーん。譲れないのは容姿か…

罵倒願望

罵倒したい。 これでもかと、けちょんけちょんに言ってやりたいときはないだろうか。 痴話喧嘩でも、見知らぬ他人とのトラブル、もしくは仕事の人間関係で、今ここだ、ここで言うしかないというタイミングで、確実に仕留める一撃を喰らわしたい、そんなこと…

夜に見る宇宙は。

「最近宇宙のことをよく考えるんだけどさ」 「へえ。壮大なこと考えているんだなあ」 「月ってさ、なんなの? 意味あるの?」 「失礼でしょう月に」 「なんか戦争でもあったの? あんなデコボコでさ」 「ないよ。それにさ、潮の満ち引きとか月も地球に影響与…

トランプの覇権もしくはWiiUの反撃

トピック「イギリス」について 「しかしさ、ついにイギリスがEUを離脱したじゃない」 「その前に樹木希林は現世を解脱したけどな」 「それはいい」 「瀬戸内寂聴もだった!」 「それもいい。そういう話はロスタイムでやれ」 「試験前にさ、俺全然勉強して…

死神

「やばいよやばい。トイレのドアノブが取れるくらいやばい」 「どうしたんだよ落ち着けよ」 「さっきね、死神に宣告された」 「えー。ドアノブと比較にならないじゃん」 「いや、トイレのドアノブもかなりのやばさだよ。だって出られないんだよ?」 「いやい…

部屋は、閉じている。

すえたような臭いに顔をしかめると、わたしは着ているジャージの裾を鼻元に持ってきた。 洗剤でも汗でもない、落ち着く臭いがした。 ならばと、すえた臭いの正体を確かめるべく、敷きっぱなしの布団でだらしなく腹を出している恵一に近寄った。 まるで浮浪者…

走り去る2016年

「今年もいろいろあったよね」 「そうだなあ。まだ半年しか経ってないのに、10カ月くらい生きた感じするわ」 「大差ないけどね」 「子どものころの一年と大人の一年って時間感覚が違うじゃない」 「あー。この頃一年が早い早い」 「6歳児にとっては一年は…

東京オリンピックと、世界の都市。

「大変だ! 夢を見た」 「そっか。悪夢か」 「悪夢なんてもんじゃない。もうバクすら喰わない」 「他人の夢の話ほど退屈な話ってないけどな」 「舛添が捕まってな、それはいいんだけど」 「それだけでもけっこうなもんだぞ」 「その手錠がオリンピックのエン…

物理学、選挙、そしてわたしが食べたのは親子丼

「宇宙物理学って、なんの役に立つわけよ」 「そりゃああんた。地球の成り立ちや宇宙の全貌まで明らかにさ」 「そんなことよりも疲れが取れる究極のバスロマンのほうがよくない?」 「まあそれも大事だけど」 「タニタなんて目じゃない健康メニューとかさ」 …

ひとり メール。

母が亡くなって、一年がたとうとしていました。中学生になったばかりの啓太は、まだ十数年しか生きていませんが、これほど辛い一年はなかったと記憶しています。 六畳の和室に、父は座っていました。啓太も隣へ行って、きちんと正座で腰を下ろしました。すっ…

EURO2016 グループリーグ

イングランド2-1ウェールズ 「しかしホエールズだつけ? ベイルって選手はすごいな」 「大洋じゃんかよ。すごい古さだな」 「タリーズ?」 「もうコーヒーショップだし。ウエールズだから。とにかく」 「なんでイギリスなのにイングランドだのウエールズ…

闇鍋

妻との最後の食事は、暗闇の中で始まった。 冗談交じりで、「最後に闇鍋なんてどう?」と僕が提案すると、「いいよ」とあっさり了承したのだ。 闇鍋はわれわれが交際するきっかけにもなった思い出の料理だ。それが最後の食事とは、皮肉なものである。 カーテ…

雨の国

雨がやまない。 三月に入って、最初の一週間くらいはニュース番組も悠長なものだった。 「これだけ振り続けるのは観測以来過去最高となります」 どこか嬉しそうに予報士は言ったものだ。 「どうか沿岸部の方、山沿いにお住まいの方は水難事故や土砂崩れにご…

本を売る店

「ここがどこだか分かって来たんだろうな?」 「あ、はい。今日からこちらでお世話になります。よろしくおね」 「はい、は一度でいい!」 「一度しか言っていないんですけど」 「ここは一見わからないかもしれないが、本屋だ」 「ひと目でわかります」 「わ…

ヴィーガンやめました。その後(3カ月)

お題「マイブーム」 朝から雨が降っていた。 息子が「ダムの水はどこから来るの?」と空を見上げて言っていた。 「雨だよ」 「雨? ふうん」 わたしがヴィーガンになろうと思った日も、わけもなく、妙に雨が降り続いていた朝だった。 新しい朝、希望に満ちた…

世界の終わり

「もしもよ。もしも明日世界が滅ぶのなら、どうする?」 ロウソクの柔らかい光の中で、妻が言った。 ここのところ断続的に停電が起こる、今夜もすでに二時間ほど、電気供給が止まっていた。 家中から音が消えて、暗闇に包まれると、不思議と時間感覚がなくな…

動物の町

僕の引っ越してきたこの村には、僕のことを詮索するような人物はいない。 この村には極端に人間は少ない。大多数は動物たちであり、彼らは過去に対する執着心が少ない気がする。 だから僕にとっては、この村は居心地がよい。 真夏日は連日続いていて、僕は朝…

EURO2016 開幕記念

「まあしかしサッカーってのはつまらないスポーツだな」 「そうかな」 「パイプユニッシュだわ。ユニッシュ」 「詰まらない強調かよ」 「まずもって点数が入らなすぎ」 「バスケットボールみたいにガンガン入るのもどうかと思うけど」 「0-0 だよ? 90…

プロポーズ

「結婚してくれる?」 「結婚は墓場に入るみたいなものっていうじゃない」 「あ、うん。すごい切り返しだよね」 「とするとさ、結婚式は8月15日がいいのかしら」 「一応オーケーしてくれたってことなのかな」 「まてよ。わたしたちの地域だと7月15日かなあ」…

夜に挑むひかりたち

わたしは疲れていた。 疲れていると、考えることすらもう嫌だった。そのことを自覚したからといって、生活は変わらないのだ。 車窓にはわたしの顔があった。 顔色は悪くなくて、夜の街の手前に、照明に浮かび上がるわたしがいた。 表情がなくて、なにを考え…

忘却の歌

お題「ひとりの時間の過ごし方」 鏡の前に奇妙な生き物がいる。 化粧をするほどに不可解な獣のようになってしまって、これはきっと年齢のせいなのだと思うことにした。「あなた唐突にそんなこと言っていいんですか」「いいの。別に深い意味はないから」「結…

梅雨の朝、あなたは。

「梅雨だよね」 「そうね。毎日しめじめして」 「しめじかー。唐突にわかりやす言い間違いか~。香り松茸」 「マジ姫路」 「姫路か~。まあ姫路行きたいよね。兵庫県は遠いからなあ」」 「アジ沼津」 「うん。しめじのパートで遊ぶのやめよう」 「多事総論」…

線路は続くよ。どこまでも。

「聞いてよ」 「なんだよ」 「いろいろあったなって、この頃痛感してるんだよ」 「まああれだ。40年も生きていればいろいろあるって」 「コージーコーナーの味は変わらないなとかさ」 「ああ、なんだかちっぽけだな」 「でも山崎のランチパックは種類増え…

命を奪い、生きているということ

野菜? 雑穀? あのさ、肉食べなきゃ力でないでしょう? まんべんなく食べるのが一番いいんだよ。 タンパク質はどうやって摂取するんだよ。 菜食主義になると、こういう質問を嫌と言うほど受けます。もうこれはわたしは罪を犯しているんですか? というほど…

わたしが見ているのはひとつの人生だったのだ

特別お題「心温まるマナーの話」 by JR西日本 結婚をして、それがきちんとした区切りになって、わたしはきちんとするのではないかと幻想を抱いていた時期があった。 結婚は劇的にわたしをかえることはなく、胸の奥にある小さな悲しみというのか、虚しさとい…